北欧、暮らしの道具店

売上の半分がリピーターで占める

ECサイトから、メディアへと発展を遂げた「北欧、暮らしの道具店」を運営する株式会社クラシコム。サイトへのアクセス数の約半分が「過去に20回以上訪問した人」で占められ、売上の半分もそのリピーターで占められている。2017年7月で創業11年を迎えるクラシコムは、どのような変遷を経てきたのだろうか。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

創業まで

クラシコム創業以前の青木氏

まず不思議なのは、クラシコムは青木耕平氏と佐藤友子氏の兄妹2人で創業したということである。どうやら青木氏が妹を誘ったようだ。

兄妹のビジネスでの接点はクラシコム以前からあったようで、クラシコムを創業する以前に青木氏が複数の企業を単独、または共同で経営していた際にも、佐藤氏を事業に誘っている。そして、兄妹2人でクラシコムを創業する。

兄と妹のふとした会話の中で生まれた「北欧、暮らしの道具店」

クラシコム創業後は、不動産会社を介さずに賃貸物件を契約できる「FLBO.jp」というインターネットサービスを立ち上げる。当時は先進的なビジネスモデルであったようだが、なかなか軌道に乗らず1年足らずで撤退する。

撤退後に、妹をいろいろと巻き込んでしまったことを気の毒に感じ、佐藤氏が「北欧に行きたい」と言っていたため2人での旅行を考える。この際に、佐藤氏から北欧のビンテージ食器が日本で人気があることを聞いた青木氏が、クラシコムのサービスを思いつく。

その後の行動は、決めたら実行する青木氏の姿勢が色濃くでている。残っていたお金を持って北欧に行き、有金でビンテージ食器を買い付ける。しかし、日本についてみると食器の多くが割れていた。そこから「北欧、暮らしの道具店」が始まる。

  1. 2006年9月青木耕平氏(34歳)と佐藤友子(32歳)の二人で「株式会社クラシコム」を創業
  2. 不動産会社を介さずに賃貸物件を契約できるインターネットサービス「FLBO.jp」をリリースするも、1年足らずで撤退
  3. 佐藤との話から北欧のビンテージ食器を輸入するビジネスを思いつく
  4. 2007年9月北欧、暮らしの道具店 オンラインショップ 開店
  5. 2009年3月楽天ショップ 開店
  6. 楽天ショップ出店後、約半年で700万円の広告費を投資して月300万円の売上を達成。
  7. 2009年5月実店舗 国立店 開店
  8. 2010年6月当時会社の売上の35%(約2,500万円)を占めていた楽天ショップの売上構成比を18ヶ月で8%に引き下げる。
  9. 2011年12月楽天ショップ 閉店
  10. 楽天ショップを閉店した翌月、本店オンラインショップのアクセス数が20%以上向上。
  11. 2014年1月検索広告 撤退
  12. 2014年2月アフィリエイト 撤退
  13. 2014年3月実店舗・国立店 閉店

2つのターニングポイント

クラシコムの事業ははっきりとしたPDCAがあり、目標を設定したら実行と検証を繰り返している。また、大きく会社の方針を変えるような転換を行っており、「楽天ショップへの出店と撤退」「広告依存からの脱出とメディア化」が転機となっている。

楽天ショップからの撤退

2期目までは1000万ほどの売上であったが、3期目には3000万を超える。それは、楽天への出店が大きく貢献しており、2009年3月に楽天ショップを開店してから約半年で700万の広告費をかけ、月収300万までショップを成長させている。

多額の広告費をかけて楽天ショップを大きく成長させたものの、モール型オンラインショップでできることの限界を悟り、自社オンラインショップの売上構成を高めるために奔走する。そして、1年半かけて楽天ショップの売上構成を8%まで引き下げて、楽天ショップを閉店している。

広告費をかけないビジネスモデルへの転換

当時約1億の売上がありながら、広告費用をその15%割いていた。業界的に不問立であった広告費に疑問を感じて、メスをいれ始めていく。その時、ロールモデルとして選んだのが糸井重里氏が運営する「ほぼ日」である。

人気の秘密について考えました。見ていると有名人がたくさん出ている。でも有名人の名前で検索してもその記事が上位に上がってくることはほとんどなく、SEOもあまり気にしていないようでした。なんて朴訥(ぼくとつ)とした運営なんだと。驚いたのは、数年前に『ほぼ日』が採用をかけるにあたって、売上を公開したのを目にした時。当時で約20億。別のメディアのインタビュー記事では1日140万PVほどのアクセスがあることも知りました。コンバージョン率が高いとは思えない立てつけの中で、SEOも気にしていないように見えるし、広告もやっていないように見える。集客経路も乏しいのになぜこんなに…と。

成功の理由を探っていく中で、ほぼ日は「山奥の蕎麦屋」だということを知る。それは、糸井氏を目当てにお客様が来ていてる状態であり、ファンがいると。その着想から、メディア化を進めていく。

一度で読みきれないコンテンツを盛り込む

ロールモデルを選定した後、青木氏は日記や連載ページを発信しながら、コンテンツによる集客を進めていく。コンテンツの新規追加以外でも、糸井氏が連載していた「通販生活」から連想を得て、EC業界の常識を破って既存の商品ページをリライトしていったようだ。

また、メディア化を目指していく当たって、単に発信するコンテンツを変えるだけでは十分ではなく、組織の仕組みや人材を変革していくことが重要だという。自社オンラインショップにかけていた広告のPDCAを回しながら広告費を押し下げ、その削減した分を良い人材の採用に投資しながら、組織運営の方法を仕組み化していく。

そして、組織の内部から配信するコンテンツの量と内容まで変えていくことで、2014年1月には検索広告から撤退し、同年2月にはアフィリエイト広告からも撤退している。

兄妹での経営

共同経営は上手くいかない。そんな言葉をネットや経営者から聞く。ダスラー兄弟が兄弟の不和が原因でアディダスとプーマに分裂した話などは有名な話だと思う。また近年でも、ガリバー(現:株式会社IDOM)の経営を羽鳥兄弟二人で行っている体制も他に類を見ない事例としてニュースサイト等でも取り上げられている。

冒頭でも触れたが、そんな定説がある中でどのような関係で二人はクラシコムを運営しているのだろうか。

相互補完する関係

まずは、二人がお互いが持っていないものを持っていることが大きい。クラシコム以前の事業でも誘っていたことから、青木氏自身はビジョンは二人で共有しながらも、青木氏が合理的な判断をし、佐藤氏が人と関わり人を引っ張る行動をしていくという役割を担っているようだ。

佐藤氏:私は、青木と一緒にクラシコムをやるようになった今の人生が、最も緊張感がある気がしています。
やはり私は「妹」なので、青木が情状酌量してくれているなと感じるところもあるんです。だけど、2人で共有している「こういうのがいいよね」といった美意識やコミュニケーションを逸脱したとき、妹であろうと取締役をクビにできる人だと思っています。合理的な判断ができるドライな部分があるので、大事な決断のときに感情を優先させない。

青木:妹に一番助けられているのは「人との関わり合い部分」ですね。僕は、人との関わりが上手ではない。むしろ、一日中部屋にこもっていたいタイプなんですよね。一方で、彼女は人との関係性を作ったり、周囲を鼓舞したり、引っ張っていったりする人間力みたいなものがあるんです。
その分、視界が俯瞰になっていない部分もあります。そこで僕が、どうすればいいのかを伝える。例えるなら、巨人がどーんといて、その肩には小人がちょこんと乗っかっていて指示を出している。巨人=妹、小人=僕のイメージです。妹にはパワーがある。その腕力を振るってくれているおかげで、今の事業ができています(笑)。

また現状では、青木氏が代表として対外的な顔になっているが、今後のクラシコムの経営は佐藤氏に託していきたいということも伝えているようだ。そうした発言に加え、コーポレートメディア「クラシコムジャーナル」をリリースしたことを考えると青木氏の中ではECという枠組みを超えた「クラシコム」として発信するウェブ出版社のような立ち位置を作り上げていこうとしているのではないかと思う。

青木:創業当初から、キャラや能力の観点でいくと、妹がNo.1で、僕がNo.2のほうがいいと思っているんですよね。僕はどちらかというと、何かしらの課題があれば喜んで解くタイプ。なので、あまり課題設定というか、動機がない人間なんです。こういうのがやりたいとか、世界を変えたいとか。
それでいうと、妹の場合は動機や世界観を持っていて、僕より本質的なビジョンがあります。「育てる」の最終的なところは、トップを交代することが合理的なのかなと。これは僕が創業以来ずっと、ことあるごとに妹に言い続けていることだったりします。

まとめ

青木氏が様々な事業を作って試行錯誤する中で、たまたま佐藤氏が言った言葉にやる気になった青木氏。そんな偶然から、事業が生まれているということがどうも不思議に感じられるが、それが恐らく自然なことなのだろう。

また事業についても失敗しながらも理想に向かって真っ直ぐに行動し、そしてたまに立ち止まってやってきたことの意味を振り返る。そうした、言われてみると当たり前だが、難しいことに真摯に挑戦してこられたことが今の結果に繋がっているのではないだろうかと思う。

参考

兄妹で創業したら、こうなった―【対談】クラシコム・青木耕平氏×佐藤友子氏
EC業界の常識を疑い、メディアの道を歩む「北欧、暮らしの道具店」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly