農業総合研究所

農産物流通の仕組みを変える農業ベンチャー

農産物流通の仕組みを変える「農業総合研究所」が、2016年に農業ベンチャーとして初めて東証マザーズへの上場を果たした。2016年の決算では11億の売上を上げ、2017年第3四半期の売上はすでに11億を超えている。そして、その売上を生み出しているのが「農家の直売所」というサービスだ。なぜ、農業ベンチャーがこれほどの成長を遂げることができたのか。

key points

  • 農業経営は厳しい状況にあり、生産者は活路を求めていた
  • 新たな流通経路を提供したことで、消費者と生産者に価値を生み出した
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なぜ伸びているのか

厳しい農業経営

1990年から2007年の17年間で、1戸当たりの農業純生産=農家さんの利益は17ポイント減少している。これは、500万円の所得が約415万円まで落ち込んでいることを意味している。


http://www.maff.go.jp/

また、農業を主業として営んでいる家計の費用は、農業所得を上回っており、年金と農業外の所得を合わせてやっと賄えているような苦しい状況になっている。企業に務める勤労世帯の方が収支は安定している。

農業経営は厳しい状況に追い込まれている。

「生産量の減少」「農産物価格の低迷」「肥料等の価格増」などの様々な課題が複合的に絡まり、このような状況になっているとネットメディアでは報じられているが、そんな鬱積する課題を尻目に、着実にその市場規模を伸ばしているが「直売店」だ。

販売価格の78%が利益

農中総研の調査によると、直近2013年度の農産物直売所の市場規模は9026億円にも達しているという。新たな流通経路として確立した背景として、その「高い利益率」と「流通までの日数がかからない」ということがあげられる。

既存の流通では、卸売市場から流通させる場合は農協や小売にマージンが発生し、最終農家の手元に残るのが販売価格の20~30%となっていた。それに対して直売店だとマージンは直売店への販売手数料のみとなり、農家は販売価格を下げても既存の流通に乗せるより約2倍の利益が残せるという。

また既存の流通であれば、農産物が出荷されてから店頭に並ぶまでに3、4日かかるが、直売店であれば出荷当日に店頭にならぶので鮮度がいい。

つまり、生産者は安く売っても今までよりも利益が上がり、消費者は地元の鮮度がいい農産物を安く買えるということだ。

直売店の中には、約27億円の売上をあげる和歌山県のJA紀の里が開業した「めっけもん広場」など農業関係者の注目を集める大型直売店なども現れており、直売店というあたらしい流通経路が市場にも支持されていることがわかる。

しかし、直売店にも課題があり、利益は高いものの少ししか売れずに、出荷もそうだが売れ残った際には引き取りに行く手間がかかってしまう。

そこで、市場流通と直売店の中間となる新たな流通経路を提供しているのが農業総合研究所の「農家の直売所」というサービスだ。

ビジネスモデル


http://www.nousouken.co.jp/

「農家の直売所」は、スーパー内の野菜コーナーを直売店化するというサービス。そのサービスは、ITを駆使した物流インフラを構築し、生産者とスーパーを繋げるプラットフォームを提供することで実現している。

このサービスの特徴は、生産者が「どの農産物」を、「どの販売先」に、「いくらで販売するか」を決めることができることにある。それを実現するために、農業総合研究所は以下を提供している。

  • 直営、提携先の集荷場と、そこからスーパーへの物流
  • 農産物の値段を決めれて、各スーパーにも出荷できる独自開発したバーコード発行システム
  • ウェブ上で各生産者の販売状況を確認できる仕組み

またマネタイズの方法は、販売価格の35%を生産者からもらい、スーパーと農業総合研究所で折半した17.5%を収入源としている。プラットフォームの提供により農業総合研究所は収入を得て、生産者は売上の65%を手にすることができ、また直売店よりも多く売ることができる。

結果として「農家の直売所」という新たなビジネスモデルの登場により、生産者は市場流通よりも儲かり、直売所よりも多く売れる流通経路を獲得し、消費者はより身近に農家の新鮮な農産物を購入できるようになった。

まとめ

農業総合研究所が生み出した、新しいビジネスモデルによって農業に新たな風が吹き込まれた。もしかすると、コンビニエンスストア内にも導入される可能性もある。また、加工されていない農産物だけではなく、サラダや漬物などの加工された食品が流通すれば、もっと手軽に新鮮な野菜を食べられて、生産者は価値を付与することで販売単価を上げることができるようになるかもしれない。そして、流通だけではなく今後は農業経営自体に深く関与していくことも考えられるだろう。これから、どのように農業総合研究所が農業と関わり、変えていくのか。今後も期待したい。

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